寄り添った。
『君こんなものがあったよ。』
 喬介が笑いながら私の前へ差し出したのは、飛びッ切《きり》上等の飾《かざり》が付いた鋭利な一丁のジャックナイフだ。鉄屑の油や細かい粉で散々に穢《よご》れているが、刃先の方には血痕らしい赤錆が浮いている。
『残念だがこう穢れていては迚《とて》も指紋の検出は出来ん。』
 喬介は、手袋の指先で、柄元の塵を払い退けた。と、鮮《あざや》かにG・Yと刻んだ二文字の英字が見えて来た。途端に、私の頭の中で電光の様な推理が閃《ひらめ》いた。G・Y――とは、「山田源之助」をローマ字綴りにした場合の頭文字《イニシャル》の配列である。そこで私は、すかさず言葉を掛けた。
『君、こりゃあ山田源之助の頭文字《イニシャル》だ。犯人は源之助なんだね。』
『うむ。まあそう考えて行《ゆ》くのも悪くはないさ』と、落着き払って喬介は言う、『だが、他《た》の多くの条件の符合を無視して、只《ただ》これだけで犯人を山田と断定する事は、どう考えても危険性の多い話だ。僕は先ず、被害者は一体何をしにこんな処までやって来たのだろうか? その方を先に考えたい。そして君は、あの先程被害者の細君が話した
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