めり込んだ鉄屑なんだ。僕はこの推理の延長から、殺人の現場《げんじょう》を直感する。それは旋盤工場である。旋盤工場はあの鉄工場の一部にある筈《はず》だ。其処《そこ》の裏手の屑捨場《くずすてば》まで歩けば、もうそれで充分だ。』
私は黙って喬介の後へ続いた。途中で行逢《ゆきあ》った職工の一人に屑捨場の所在を訊ねた私達は、それから間もなく鉄工場の隅の裏手へやって来た。其処には、油で黒くなった古い鉄粉や、まだ銀色に光る新しい鉄粉が、山と積って捨てられてある。
喬介は直ちに手袋をはめると、比較的|新《あた》らしい鉄屑の傍《そば》へ腰を屈《かが》めて、ごそごそとさばき始めた。暫く一面に掻《か》き廻していたが、何《な》んの変化も見られない。追々《おいおい》私は倦怠《けんたい》を覚え始めた。
と、喬介の顔色が急に赧《あか》らみかけて来た。成る程、喬介の手元を見ると、新《あらた》に掘り出されたまだ余り古くない白銀色の鉄粉の層の上に、褐色の錆を浮かした大きな染《しみ》が出て来た。被害者の心臓から流れ出た血の痕《あと》だ。私がその血痕を夢中で見詰めている間に、喬介は何かチラッと光る物を拾い挙げて私の側へ
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