しになっていたに違いはないが、凡《すべ》ての傷の一番最後から着いたものなんだ。何故《なぜ》ってあの油は、背中の上部の上衣《うわぎ》から、綻《ほころ》びの中のジャケットや擦《す》り破れた肌の上まで、そして縛られた麻縄の表側へまでも、ひっこすった様に着いていたか轤ヒ。さあ、これで一通りこの方は済んだ積《つも》りだ。ひとつ、これから殺人の現場《げんじょう》を調べて見ようじゃあないか。』
喬介はこう言って、鉄工場の方へどんどん歩き出した。私は驚いて思わず声を挙《あ》げた。
『エッ! 殺人の現場? どうして君はそれを知っているんだ。』
私の質問に微笑を浮べた喬介は、歩きながら言葉を続けた。
『ふむ。何でもないさ。君はあの死人の左の顔面に気味悪いソバカスのあったのを覚えているだろう。僕はあれを見た瞬間に、ソバカスが顔の一方に丈《だ》けあるのを不思議に思ったんだ。で、よく調べて見ると、なんの事はない鉄の切屑《きりくず》の粉が一面にめり込んでいるのさ。つまり、ソバカスと思った小《ち》いさな斑点は、被害者が心臓を突き刺されて、俯向《うつむき》になった儘《まま》バッタリとノビて了《しま》ったトタンに、
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