しく周囲の皮膚が擦りむけていたね。一体人間の皮膚と言う奴は、勿論生きている人間の、而《しか》も薄い上皮ではなくあの屍人《しにん》のそれの様に一枚下の厚い奴の事だよ。そう言う皮膚は、あんなに易々《やすやす》と傷口の周囲までまくれて了《しま》うものかね? 僕はそう思えないんだ。只《ただ》、もう息の通《かよ》っていない、そろそろ虫の湧《わ》きかかりそうな、或は又、数日間水浸しになっていたとか言う様な屍体では、そう言う事も信じられる。で、この考え方からして、最も妥当な順序を立てて見ると、先ず最初被害者は、鋭利な刃物で心臓を一突きに刺されて絶命する。次に後手《うしろで》に縛り挙げられ、重《おもし》を着けられて海中へ投げ込まれる。茲《ここ》で暫く時間を置いて、次にあの致命的な打撲傷と恐るべき擦過傷が幾分柔かくなった肌へ加えられる。茲で面白い証拠を僕は見ておいたよ。後手に縛られた両腕の表側には擦過傷があるが、腕の後側や腕の下に当る胸の横から背中の一部へかけては、衣服の綻《ほころ》びさえも見られない事だ。次に、あの黒い機械油のシミ[#「シミ」に傍点]だが、溶け加減と言い、染み工合と言い、確かに暫く水浸
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