泡が真黒《まっくろ》な泥水と一緒に浮び上って来た。
 この時、私達の耳元で、恐しい野獣の様な唸《うな》り声が聞えた。振り向くと、矢島五郎が、鼻の頭をびっしょりと汗で濡らし、真っ青《さお》になりながら唇を噛み締めて地団駄《じたんだ[#「じたんだ」はママ]》踏んでいる。喬介は微笑《ほほえ》みながら再び海上へ眼を遣《や》った。五分程すると、梯子の下へ潜水夫《もぐり》が戻って来た。見ると、原田喜三郎と同じ様に、両腕を後手に縛りあげられた屍体を、背中に背負っている。
『あッ! 源さんだ。』
 今までポンプを押していた職工の一人が、突飛《とっぴ》もない声で叫んだ。矢島は、ガックリと顔を伏せてその場へ坐り込んで了《しま》った。
 源之助の屍体には、喜三郎の屍体に見られた様な打撲傷や擦《かす》り傷はなかった。只《ただ》、心臓の上に、同じ様な刺傷があるだけだ。
『古い鉄の歯車の大きな奴を重《おもし》にしてありましたよ。迚《とて》も持って来れませんので、途中で綱を切って了《しま》ったんです。そう言えば、もう一本中途でむしり取った様に切れた綱が重《おもし》に着いていましたが、あれに喜三郎さんの屍体が縛り付け
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