てあったんでしょうなあ――』
 仕事を終った潜水夫《もぐり》は、そう言って大きく息を吸い込んだ[#「吸い込んだ」は底本では「吸い込だ」と誤記]。
 喬介は、矢島の肩に手を掛けながら、
『君。もう一つ訊くがね。工場の裏で二人に逢った時に、何故話を丸くしないでこんな酷《むご》い事をして了《しま》ったのかね?』
 喬介の質問に、キッと顔を挙《あ》げて矢島は、自棄糞《やけくそ》に高い声で喋り出した。
『こうなりゃあ、何も彼《か》もぶちまけちまうよ。三年前まで二人はあっし[#「あっし」に傍点]と一緒に天祥丸に乗り組んでいたんだ。ところが丁度《ちょうど》天祥丸がまだ新品[#「新品」に傍点]で南支那《みなみしな》へ遠航[#「遠航」に傍点]をやってた時だ。この前の船長で、しこたまこれ[#「これ」に傍点]を持ってた柿沼って野郎を、あっし[#「あっし」に傍点]が暴風《しけ》の晩に海ん中へ叩ッ込んで、ユダ[#「ユダ」に傍点]みてえに掴み込んでやがった金をすっかりひったく[#「ひったく」に傍点]ったのを二人が嗅ぎ付けて了《しま》ったんだ。そ奴《いつ》をあの晩ゴタゴタ並べて強請《ゆす》りに来たんだ。だから片付け
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