傍《かたえ》の警官には眼も呉《く》れず、こう声を掛けた。
『矢島君。さあひとつ、潔《いさぎよ》く言って呉《く》れ給え。山田源之助の屍体を運んで行って、この海の中のどの辺へ沈めたのかって事をだね。多分原田喜三郎と同じ場所なんだろう?』
『…………』
 矢島は黙って喬介を睨《にら》み付けていた。
『君、言えないのかね。え? じゃあ仕方がない。僕がその場所を知らしてあげよう。』
 喬介は涼しい顔をして一号|船渠《ドック》の方へ飛んで行《ゆ》くと、間もなく、今|入渠船《にゅうきょせん》の据付《すえつけ》作業を終ったばかりの潜水夫《もぐり》を一人連れて来た。
 潜水夫《もぐり》は私達の立っている近くの岸壁まで来て、暫く何か喬介から指図《さしず》を受けていたが、軈《やが》て二人の職工を呼び寄せると、気管《ホース》やポンプの仕度《したく》を手伝わせ、間もなく岸壁に梯子を下げて、直《す》ぐ眼の前の海の中へ這入《はい》って行った。十分程すると、私達の立っている処《ところ》より少しく左に寄《よ》って、第二号|船渠《ドック》の扉船《とせん》から三|米《メートル》程|隔《へだた》った海上へ、夥《おびただ》しい
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