い親爺《おやじ》だ。それに引き換えて水夫長の矢島五郎君は、船長も驚いている程の凄腕なんだが、年はまだ二十九歳の所謂《いわゆる》例の「若僧」と言われた部類に属しとる。で、僕は早速《さっそく》矢島君にこっそりと面会して、あのジャックナイフを買い取って呉《く》れんかとワタリ[#「ワタリ」に傍点、底本では「タリ」に傍点]を付けて見たんさ。すると、ナイフを見た矢島君は、途端にダアとなって震えながら百圓札を一枚気張って呉《く》れたよ。で、僕は札を受取る代《かわ》りに、矢島君に捕縄《ほじょう》を掛けさして貰ったんさ。先生、多少は駄々を捏《こ》ねたがね。なに、大した事はなかったよ。』
喬介はそう言って、笑いながら右腕の袖口《カフス》をまくし挙《あ》げて見せた。手首の奥に白い繃帯《ほうたい》、赤い血を薄く滲《にじ》ませて巻かれてあった。
『じゃあ一体、山田源之助はどうなったと言うんだい?』
ごっくりと唾《つば》を飲み込みながら私が訊《たず》ねた。[#底本ではこの行1字下げしていない]
『さあ、それなんだがね――』
喬介は振り返って、遠去《とおざ》けてあった矢島五郎の側まで歩《あゆ》み寄《よ》ると、
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