た岸壁の辺《あた》りまで来た時に、どきまぎ[#「どきまぎ」はママ]しながら彼等について行った私に向って、初めて喬介が口を切った。
『君。天祥丸の水夫長、そして殺人犯人矢島五郎君を紹介するよ。』
喬介はそう言って、捕縄を掛けられたセーラーを私に引合《ひきあわ》した。私は、まだ犯人を山田源之助だと思っていたので、と言うよりも私は、ナイフに彫《ほ》り込まれた頭文字《イニシャル》に依《よ》って私の作り上げた推理を、まだ意地悪く信じていたかったので、矢島五郎――と聞いた時に、いささか昂奮《こうふん》して了《しま》った。が、間もなく喬介は縛られた男を私達から遠去《とおざ》けて、喋り始めた。
『先程技師の人から、天祥丸が四日市へ寄港したと聞いた時に、僕はふとあの広告マッチの関東煮としてある方ではなく、その裏側のレッテルに、ヨの字を冒頭にした幾つかの片仮名が、ゴテゴテ小いさく[#「小いさく」はママ]並んでいたのを思い出したんだ。で、早速取り出して穢《よご》れを拭って見たのさ――』と喬介は先程のマッチを私の眼の前へ差し出しながら『見給え。「勘八」と言う店名の下に、小さく「ヨッカイチ会館隣り」としてある
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