待つ事にした。
一時間して船渠《ドック》が満水になっても、喬介はまだ帰らない。扉船《とせん》内の海水が排除されて、その巨大な鋼鉄製の扉船が渠門《きょもん》の水上へポッカリ浮び挙《あが》っても、それからその浮び挙った扉船を小船に曳《ひ》かして前方の海上へ運び去り、小蒸汽《こじょうき》に曳航された入渠船が、渦巻きの静まり切らぬ船渠《ドック》内へ引っ張り込まれても、喬介はまだ来ない。渠門に再び扉船がはめ込まれて、外海と劃別《かくべつ》された船渠《ドック》内の海水が、ポンプに依《よ》って排除され始めた頃に、やっと表門の方から一台の自動車が這入《はい》って来た。喬介かと思ったら警視庁の車である。さて、事件が大分《だいぶ》複雑化して来たなと一人で決め込んだ私の眼の前へ、車の扉《ドア》を排《はい》して元気よく飛び出した男は、ナント吾《わ》が親友青山喬介だ。驚いた私の前へ、続いて現れたのは、ガッチリ捕縄《ほじょう》を掛けられた、船員らしい色の黒い何処《どこ》となく凄味のある慓悍《ひょうかん》な青年だ。二人の警官に護《まも》られている。
喬介に伴《ともな》われた一行が、二号|船渠《ドック》の海に面し
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