ック》に入渠船《にゅうきょせん》があるからと言って、向うの船渠《ドック》の方へ出掛けて行った。そこで私も喬介に誘われて、面白半分に技師の後に従った。
 一号|船渠《ドック》の渠門《きょもん》の前には、千トン位いの貨物船《カーゴ・ボート》が、小蒸汽《こじょうき》に曳航されて待っていた。私達が着くと間もなく、扉船《とせん》の上部海水注入孔のバルブが開いて、真ッ白に泡立った海水が、恐《おそろ》しい唸《うなり》を立てて船渠《ドック》の中へ迸出《ほんしゅつ》し始めた。次《つ》いで径二尺五寸程の大きな下部注水孔のバルブも開いて、吸い込まれて面喰《めんくら》った魚を渠底《きょてい》のコンクリートへ叩き付け始めた。その小気味良い景色にうっとり見惚《みと》れていた私の肩を、喬介が軽く叩いた。
『君。船の入渠《にゅうきょ》する所でも見ながら暫く待っていて呉《く》れ給《たま》えね。僕はこれから、ちょいと犯人を捕《とら》えて来る――』
 喬介はそう言い残した儘《まま》、呆気に取られている私を見返りもせずプイと構内を飛び出して了《しま》った。仕方がないので私は、船渠《ドック》の開閉作業を見物しながら喬介の帰りを
前へ 次へ
全27ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング