『で、その天祥丸って言う船は、今|何処《どこ》にいるんですか?』
『今は芝浦に碇泊《ていはく》しています。何《な》んでも荷物の積込みが遅れたとかって船主《キーパー》の督促で、昨晩日が暮れてから修繕が終ると、その儘《まま》大急ぎで小蒸汽《こじょうき》に曳航《えいこう》されて出渠《しゅっきょ》しました。そうですねえ、今日の正午だそうですから、もう四時間もすると出帆です。』
『有難う。で、その船は五日前の朝|入渠《にゅうきょ》したと言いましたね? すると、あの被害者が行方不明になった、つまり殺された日の朝ですね?』
『ええそうです。』
『じゃあ構内の宿泊所には、その晩天祥丸の船員が泊っていた訳ですね? つまり、夜業はなくても、この造船所の構内には、その晩天祥丸の船員がいたんですね?』
『ええ。まあ、少々はですな。』
『と言うと?』
『詰《つま》り、八〇パーセントは淫売婦《おんな》の処《ところ》――という意味です。』
『好《よ》く判《わか》りました。で、その日天祥丸以外に入渠船《にゅうきょせん》がありましたか?』
『なかったです。』
『有難う。』
技師は喬介との会話が終ると、一号|船渠《ド
前へ
次へ
全27ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング