って云いましたが、これがその夜学へ通う苦学生なんです。
で、事件と云うのは……日附を忘れましたが、なんでも七月の、まだお天道様がカンカンしてる暑い頃のことでして……日本橋の北島町で、坂本という金貸の家が空巣狙いに見舞われたんです。この坂本って家《うち》は、主人夫婦に、大学へ行くような子供が二、三人あるんですが、恰度《ちょうど》夏休みで、息子達は皆んな海水浴へ行って留守……そして恰度被害を受けたその日には、細君は女中を連れて昼から百貨店へ買物に出掛けて、後には主人の坂本が一人残った、と云うわけなんです。で、残された主人は、むろん金貸とは云っても内々の金貸で、仕舞屋《しもたや》のことですから、玄関口に錠をおろして、座敷で退屈まぎれに書見をしはじめたんです……ところが、三時の時計の音を聞いてから、ついウトウトとまどろんじまったんです。それから、二十分ほどして買物に出掛けた細君が三時二十分に女中と一緒に帰って来たわけです。主人は、それまで二十分間と云うもの、すっかり寝込んじまったんです。で帰って来た細君は、仕方がないから、錠のおろしてない勝手口から這入ったんですが、這入ってみて、台所の板の間
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