ーソクみたいにもたれかかって来るような囚人でも、いまではなンの感興も覚えずに、まるで材木でも運ぶような塩梅《あんばい》に、市ヶ谷行きの囚人自動車《くるま》に積み込む――とまア、そんな工合になっちまってるんです……こうなるとなんですな、むしろ盗《と》ったの殺したのとやに[#「やに」に傍点]ヤボ臭い刑事事件なんぞよりも、いっそ民事の、なにか離婚|談《ばなし》かなんかのほうが、こうしんみりして、面白い位いですよ……
いや――ところが、これからお話ししようと云うのは、決してそんなんじゃアないんで、……むろん刑事事件なんですがね……それがその、なンて云いますか、ひどく一風変ったやつでしてね、さすがにメンエキの、不感症のこの私でさえも、いまだに忘れかねると云うくらいの、トテツもない事件《やつ》なんですよ……
いちばん最初の事件は……なんでも、芝神明《しばしんめい》の生姜市《しょうがいち》の頃でしたから、九月の彼岸《ひがん》前でしたかな……刑事部の二号法廷で、ちょっとした窃盗事件の公判がはじまったんです。
……被告人は、神田のある洗濯屋に使われている、若い配達夫でして、名前は、山田……なんとか
前へ
次へ
全31ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング