を持った後家さんを殺したと云う事件なんですがね……これが又、その、証拠が不充分で審理がなかなか果取《はかど》らないって代物なんでして、そこへその、「つぼ半」の女将が証人として現れたんですが、ところがこの証人、前の放火事件と同じようにあとから警察へ申出て、つまり検事側から出て来た証人でして、むろん被告にとって不利な証言を持込んだんです。なんでも……今度は、恰度事件のあった日に競馬を見物に出掛けたんだそうですが、その遅くなった帰り途の現場附近で、殺された後家さんの家のある露路《ろじ》の中から、不意に飛出して来た男にぶつかった、と云うんです。むろん兇行の時刻と一致するんですがね……ところが「つぼ半」の女将、あとで新聞の写真を見て、容疑者がそのぶつかった男とバカによく似てるってんでテッキリ怪しいと睨んだんだそうですが、やがてそれが警察の耳にはいり今度召喚を受けると進んで出て来て首実検をしたと云うんですが、入廷して被告の顔を見ると、涼しげな声で、
「ハイ、確かにこの方でございます」
とやらかしたんだそうですよ。
むろん殺人事件の判検事は、前の時とはまた係りが違ってたもんですから「つぼ半」の女
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