じゃアないですか……もっとも、その時はまだ、同じ女が、洗濯屋事件のほかに放火事件にも関係していたってことは、私は知りませんでしたがね……それにしても、よく証人に立つ女だくらいに思って、恰度休憩時間に一号法廷の弁護士が……その弁護士は菱沼《ひしぬま》さんって云いましたがね……その菱沼さんが、なにか用事があって私達の部屋へ来られた折に、ちょっと口を辷《すべ》らして聞いてみたんです……すると、その時は菱沼さん、別に大して不思議にも思われないようでしたが、恰度そばに居合わせた私の同僚《なかま》で夏目《なつめ》ってのが、どんな女だって、容姿《なり》から名前まで聞くんです。で、こうこう云う女だって云うと、その女なら、前に放火事件の時にも三号法廷で証人に立ったと云うんです。でまア、そこで私も、始めてその事を知ったわけなんですが、その夏目の云う事を聞いた菱治さんは、そこで急に不審を抱いたんです。不審を抱いたどころじゃアない、ひどく亢奮《こうふん》しちまったくらいで……
いや全く、無理もないですよ……聞いてみれば、その殺人事件ってのは、なんでも、目黒あたりの或るサラリー・マンが、近所に暮している、小金
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