すがね、いやどうも、飛んでもない女なんですよ……
 左様《そう》ですね……あれは、放火事件があってから三月《みつき》ほどしてからのことでしたかね……もうそろそろ夏がやって来ようって頃でした。「つぼ半」の女将が、又しても裁判所へやって来たんです……いや、今度は私が、この目でみつけたんですよ……
 と云うのは、そうそう刑事部の廊下でしたよ。なんでも、人混みの中で最初ぶつかったんですがね……あの女将、前と違って髪を夜会巻きかなんかに結《ゆ》って、夏羽織なぞ着てましたがね……いや最初私は、その、ちょっと「築地明石町」みたいな別嬪を見た時に、おや、どこかで見たことのあるような――と思って、ふと立止ったんですが、むろんすぐには思出せませんでした。そこで、なにか事件の傍聴にでも来た人だな、とまアそう思ったんです。まったく、傍聴人の中にはいつだって物好きな常連がいくらもいるんですからね……ところが、始めはそう思ってたんですが、どうしてなかなか、見ていりゃア証人控室へはいって行くじゃアありませんか……さア、妙だな? と思いましてね、あとから法廷を調べてみると、どうです、今度は一号室の殺人事件に立会ってる
前へ 次へ
全31ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング