少くともそれまではこれッぽちの怨みッこもない間柄ですから、女将の証言も、まず正当な一市民の声、としかとりようがありません……
そんなわけで、例によって裁判長の念押しがあったり、検事さんと弁護士との押問答があったりして、すったもんだの揚句、結局次回の公判には有罪と決り、懲役六年の判決を言渡されましたよ……
いや、こんな風に申上げると、まるで「つぼ半」の女将の証言だけで、被告人が有罪になったように見えるかも知れませんが、実際はそんなんではなく、事件当時の状況や、被告側に全然有利な証拠がないことや、それに被告人の平素の行状なんてものも盛んに斟酌《しんしゃく》されての上なんです……しかし、むろん、福田きぬの証言が判決に大きな影響を与えたことは、ま、この場合確かに間違いありませんね……え?……被告ですか?……ええ、むろん直ぐに控訴しましたよ……いやしかし、気の毒だが、ダメでした。
でまア、そんなわけで、この放火事件もひとまずケリがついたんですが……これで、このままで終ってしまえば、なんでもなかったんですが……いや、ところが、これからが本筋なんでして……問題は、その「つぼ半」の女将にあるんで
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