は、なんでも縫紋《ぬいもん》の羽織なんか着込んで、髪をこう丸髷《まるまげ》なんかに結んで、ちょっと老化《ふけ》づくりだったそうですが、これがその、例によって型通り、うそは申しませぬとの宣誓を済まして証言にはいったんですがそのおきぬさんの証言と云うのは……
 放火事件のあった晩に、問題の映画館へ一番先に切符を買ってはいったのは、つまり入場者の行列の先頭にいたのは、被告人ではなしに、この私だって云うんです。なんでも、商売柄しまいまで見ているわけに行かないから、早く帰って来るつもりで早く出掛けたのだそうです……そして同席の被告を見て、あの時私のあと先には、こんな人はいませんでしたとハッキリ申立てたんです……なにも私は好きこのんで人さまを罪に落すようなことはしたくないが、確かに間違ってることを知ってて隠してはいられないから、とも云ったそうですよ……いや、むろん被告は、むきになって怒ったそうですが、けれども、その証言をひッくり返すだけの、つまり逆の証拠がまるでないんですから、こいつアどうもてんで[#「てんで」に傍点]見込みがありません……それに、調べてみれば証人も被告も、まるッきりアカの他人で、
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