巻物《まきもの》に書《か》きとめて、寺《てら》から寺《てら》へと其過去帳《そのくわこちやう》を持回《もちまは》つたなら、皆《みんな》も嘸《さぞ》悦《よろこ》ぶ事《こと》であらうが、第《だい》一、死《し》んだ会友《くわいいう》の名《な》を知《し》らないのだ。事《こと》に依《よ》つたら、主《しゆ》の君《きみ》も、それをお知《し》りにならうとなさらないのだらう。時《とき》に、あの子供《こども》たちも名《な》が無《な》いやうだ。主《しゆ》の君《きみ》は却《かへ》つて其方《そのはう》が好《い》いと仰有《おつしや》るだらう。幼児《をさなご》は白《しろ》い蜜蜂《みつばち》の分封《すだち》のやうに路一杯《みちいつぱい》になつてゐる。何処《どこ》から来《き》たのか解《わか》らない。ごく小《ちひ》さな巡礼《じゆんれい》たちだ。胡桃《くるみ》の木《き》と白樺《しらかんば》の杖《つゑ》をついて十字架《クルス》を背負《しよ》つてゐるが、その十字架《クルス》の色《いろ》が様々《さまざま》だ。なかに緑《みどり》のがあつたが、それはきつと木《こ》の葉《は》を縫《ぬ》ひつけたのだらう。皆《みんな》野育《のそだち》の無知
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