》であつたらう。さう言《い》へば、今年《ことし》の春《はる》も実《じつ》に温和《をんわ》だ。今年《ことし》みたいに、紅白《こうはく》の花《はな》がたんと咲《さ》いた歳《とし》は無《な》い。野《の》は一面《いちめん》に眼《め》が覚《さ》めるやうな色《いろ》だ。どこへ行《い》つても垣根《かきね》の上《うへ》に主《しゆ》の御血潮《おんちしほ》は煌々《ぴかぴか》してゐる。御主《おんあるじ》耶蘇様《イエスさま》は百合《ゆり》のやうにお白《しろ》かつたが、御血《おんち》の色《いろ》は真紅《しんく》である。はて、何故《なぜ》だらう。解《わか》らない。きつと何《なに》かの巻物《まきもの》に書《か》いてある筈《はず》だ。もし自分《じぶん》が文字《もんじ》に通《つう》じてゐたなら、ひとつ羊皮紙《やうひし》を手《て》に入《い》れて、それに認《したゝ》めもしよう。さうして毎晩《まいばん》うんと旨《うま》い物《もの》を食《た》べてやる。又《また》諸所《しよしよ》の修道院《しうだうゐん》を訪《ともら》つて、もはや此世《このよ》に居《ゐ》ない会友《くわいいう》の為《ため》に祈《いのり》を上《あ》げ、其名《そのな》を
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