素足の「春」の君ゆゑに。

けふは野山も新妻《にひづま》の姿に通ひ、
わだつみの波は輝く阿古屋珠《あこやだま》。
あれ、藪陰《やぶかげ》の黒鶫《くろつぐみ》、
あれ、なか空《そら》に揚雲雀《あげひばり》。
つれなき風は吹きすぎて、
旧巣《ふるす》啣《くは》へて飛び去りぬ。
あゝ、南国のぬれつばめ、
尾羽《をば》は矢羽根《やばね》よ、鳴く音《ね》は弦《つる》を
「春」のひくおと「春」の手の。

あゝ、よろこびの美鳥《うまどり》よ、
黒と白との水干《すいかん》に、
舞の足どり教へよと、
しばし招がむ、つばくらめ。
たぐひもあらぬ麗人《れいじん》の
イソルダ姫の物語、
飾り画《ゑが》けるこの殿《との》に
しばしはあれよ、つばくらめ。
かづけの花環こゝにあり、
ひとやにはあらぬ花籠を
給ふあえかの姫君は、
フランチェスカの前ならで、
まことは「春」のめがみ大神《おほがみ》。
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   声曲《もののね》     ガブリエレ・ダンヌンチオ

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われはきく、よもすがら、わが胸の上に、君眠る時、
吾は聴く、夜の静寂《しづけき》に、滴《し
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