たたり》の落つるを将《はた》、落つるを。
常にかつ近み、かつ遠み、絶間《たえま》なく落つるをきく、
夜もすがら、君眠る時、君眠る時、われひとりして。
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   真昼《まひる》      ルコント・ドゥ・リイル

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「夏」の帝《みかど》の「真昼時《まひるどき》」は、大野《おほの》が原に広ごりて、
白銀色《しろがねいろ》の布引《ぬのびき》に、青天《あをぞら》くだし天降《あもり》しぬ。
寂《じやく》たるよもの光景《けしき》かな。耀く虚空《こくう》、風絶えて、
炎《ほのほ》のころも、纏《まと》ひたる地《つち》の熟睡《うまい》の静心《しづごころ》。

眼路眇茫《めぢびようぼう》として極《きはみ》無く、樹蔭《こかげ》も見えぬ大野らや、
牧《まき》の畜《けもの》の水かひ場《ば》、泉は涸《か》れて音も無し。
野末遙けき森陰は、裾《すそ》の界《さかひ》の線《すぢ》黒み、
不動の姿夢重く、寂寞《じやくまく》として眠りたり。

唯熟したる麦の田は黄金海《おうごんかい》と連《つら》なりて、
かぎりも波の揺蕩《たゆたひ》に、眠るも鈍《おぞ》と嘲《あざ
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