》みがほ、
聖なる地《つち》の安らけき児等《こら》の姿を見よやとて、
畏《おそ》れ憚《はばか》るけしき無く、日の觴《さかづき》を嚥《の》み干しぬ。
また、邂逅《わくらば》に吐息なす心の熱の穂に出でゝ、
囁声《つぶやきごゑ》のそこはかと、鬚長頴《ひげながかひ》の胸のうへ、
覚めたる波の揺動《ゆさぶり》や、うねりも貴《あて》におほどかに
起きてまた伏す行末は沙《すな》たち迷ふ雲のはて。
程遠からぬ青草の牧に伏したる白牛《はくぎゆう》が、
肉置《ししおき》厚き喉袋《のどぶくろ》、涎《よだれ》に濡《ぬ》らす慵《ものう》げさ、
妙《たへ》に気高《けだか》き眼差《まなざし》も、世の煩累《わづらひ》に倦《う》みしごと、
終《つひ》に見果てぬ内心の夢の衢《ちまた》に迷ふらむ。
人よ、爾《いまし》の心中を、喜怒哀楽に乱されて、
光明道《こうみようどう》の此原《このはら》の真昼《まひる》を孤《ひと》り過ぎゆかば、
※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《の》がれよ、こゝに万物は、凡《す》べて虚《うつろ》ぞ、日は燬《や》かむ。
ものみな、こゝに命無く、悦《よろこび》も無し、はた憂無し。
前へ
次へ
全82ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング