されど涙《なんだ》や笑声《しようせい》の惑《まどひ》を脱し、万象《ばんしよう》の
流転《るてん》の相《そう》を忘《ぼう》ぜむと、心の渇《かわき》いと切《せち》に、
現身《うつそみ》の世を赦《ゆる》しえず、はた咀《のろ》ひえぬ観念の
眼《まなこ》放ちて、幽遠の大歓楽を念じなば、
来れ、此地の天日《てんじつ》にこよなき法《のり》の言葉あり、
親み難き炎上《えんじよう》の無間《むげん》に沈め、なが思、
かくての後は、濁世の都をさして行くもよし、
物の七《なな》たび涅槃《ニルヴアナ》に浸りて澄みし心もて。
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大饑餓 ルコント・ドゥ・リイル
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夢|円《まどか》なる滄溟《わだのはら》、濤《なみ》の巻曲《うねり》の揺蕩《たゆたひ》に
夜天《やてん》の星の影見えて、小島《をじま》の群と輝きぬ。
紫摩黄金《しまおうごん》の良夜《あたらよ》は、寂寞《じやくまく》としてまた幽に
奇《く》しき畏《おそれ》の満ちわたる海と空との原の上。
無辺の天や無量海、底《そこ》ひも知らぬ深淵《しんえん》は
憂愁の国、寂光土、また譬《たと
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