りや、おもかげの
あらはれ浮ぶわが「想《おもひ》」。
命の朝のかしまだち、
世路《せいろ》にほこるいきほひも、
今、たそがれのおとろへを
透《すか》しみすれば、わなゝきて、
顔|背《そむ》くるぞ、あはれなる。
思ひかねつゝ、またみるに、
避けて、よそみて、うなだるゝ、
あら、なつかしのわが「想」。

げにこそ思へ、「時」の山、
山越えいでて、さすかたや、
「命」の里に、もとほりし
なが足音もきのふかな。

さて、いかにせし、盃に
水やみちたる。としごろの
願《がん》の泉はとめたるか。
あな空手《むなで》、唇|乾《かわ》き、
とこしへの渇《かつ》に苦《にが》める
いと冷《ひ》やき笑《ゑみ》を湛《たた》へて、
ゆびさせる其足もとに、
玉《たま》の屑《くづ》、埴土《はに》のかたわれ。

つぎなる汝《なれ》はいかにせし、
こはすさまじき姿かな。
そのかみの臈《ろう》たき風情《ふぜい》、
嫋竹《なよたけ》の、あえかのなれも、
鈍《おぞ》なりや、宴《うたげ》のくづれ、
みだれ髪《がみ》、肉《しし》おきたるみ、
酒の香《か》に、衣《きぬ》もなよびて、
蹈《ふ》む足も酔ひさまだれぬ。
あな忌々《ゆゆ》
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