楽《がく》のやむひまを
「長月姫《ながづきひめ》」と「葉月姫《はづきひめ》」、
なが「憂愁」と「歓楽」と
語らふ声の蕭《しめ》やかさ。
(熟しうみたるくだものゝ
つはりて枝や撓《たわ》むらむ。)
あはれ、微風《そよかぜ》、さやさやと
伊吹《いぶき》のすゑは木枯《こがらし》を
誘ふと知れば、憂《う》かれども、
けふ木枯《こがらし》もそよ風も
口ふれあひて、熟睡《うまい》せり。
森蔭はまだ夏緑《なつみどり》、
夕まぐれ、空より落ちて、
笛の音《ね》は山鳩よばひ、
「夏」の歌「秋」を揺《そそ》りぬ。
曙《あけぼの》の美しからば、
その昼は晴れわたるべく、
心だに優しくあらば、
身の夜《よる》も楽しかるらむ。
ほゝゑみは口のさうび花《か》、
もつれ髪《がみ》、髷《わげ》にゆふべく、
真清水《ましみづ》やいつも澄みたる。
あゝ人よ、「愛」を命の法《のり》とせば、
星や照らさむ、なが足を、
いづれは「夜《よる》」に入らむ時。
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   花冠      アンリ・ドゥ・レニエ

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途《みち》のつかれに項垂《うなだ》れて、
黙然《もくぜん》た
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