悩み、
歩む毎《ごと》、
きしかたの血潮流れて、
木枯《こがらし》の颯々《さつさつ》たりや、高樫《たかがし》に。
噫《ああ》、われ倦《う》みぬ。

赤楊《はんのき》の落葉《らくよう》の森の小路よ。
道行く人は木葉《このは》なす、
蒼ざめがほの耻《はぢ》のおも、
ぬかりみ迷ひ、群れゆけど、
かたみに避けて、よそみがち。
泥濘《ぬかりみ》の、したゝりの森の小路よ、
憂愁《ゆうしゆう》を風は葉並に囁きぬ。
しろがねの、月代《つきしろ》の霜さゆる隠沼《こもりぬ》は
たそがれに、この道のはてに澱《よど》みて
げにこゝは「鬱憂」の
鬼が栖《す》む国。

秦皮《とねりこ》の、真砂《まさご》、いさごの、森の小路よ、
微風《そよかぜ》も足音たてず、
梢《こずゑ》より梢にわたり、
山蜜《やまみつ》の色よき花は
金色《こんじき》の砂子《すなご》の光、
おのづから曲れる路は
人さらになぞへを知らず、
このさきの都のまちは
まれびとを迎ふときゝぬ。
いざ足をそこに止めむか。
あなくやし、われはえゆかじ。
他の生《しよう》の途《みち》のかたはら、
「物影」の亡骸《なきがら》守る
わが「願《がん》」の通夜《つや》を
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