けびは、妄執の心の矢声《やごゑ》。
満身すべて涜聖《とくせい》の言葉に捩《ねぢ》れ、
意志あへなくも狂瀾にのまれをはんぬ。
実《げ》に自らを矜《ほこ》りつゝ、将《はた》、咀《のろ》ひぬる、あはれ、人の世。
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時鐘《とけい》 エミイル・ヴェルハアレン
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館《やかた》の闇の静かなる夜《よる》にもなれば訝《いぶか》しや、
廊下のあなた、かたことゝ、※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖《かせづゑ》のおと、杖の音《おと》、
「時」の階《はしご》のあがりおり、小股《こまた》に刻《きざ》む音《おと》なひは
これや時鐘《とけい》の忍足《しのびあし》。
硝子《がらす》の葢《ふた》の後《うしろ》には、白鑞《しろめ》の面《おもて》飾なく、
花形模様色|褪《さ》めて、時の数字もさらぼひぬ。
人の気絶《けた》えし渡殿《わたどの》の影ほのぐらき朧月《ろうげつ》よ、
これや時鐘《とけい》の眼の光。
うち沈みたるねび声に機《しかけ》のおもり、音《おと》ひねて、
槌《つち》に
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