[#ここから1字下げ]
心のよしと定《さだ》めたる「力」かずかず、たぐへみれば、
「真《まこと》」の唇《くち》はかしこみて「望《のぞみ》」の眼《まなこ》、天仰《そらあふ》ぎ
「誉《ほまれ》」は翼《つばさ》、音高《おとだか》に埋火《うづみび》の「過去《かこ》」煽《あふ》ぎぬれば
飛火《とぶひ》の焔《ほのほ》、紅々《あかあか》と炎上《えんじよう》のひかり忘却の
去《い》なむとするを驚《おどろか》し、飛《と》び翔《か》けるをぞ控へたる。
また後朝《きぬぎぬ》に巻きまきし玉の柔手《やはて》の名残よと、
黄金《こがね》くしげのひとすぢを肩に残しゝ「若き世」や
「死出《しで》」の挿頭《かざし》と、例《いつ》も例《いつ》もあえかの花を編む「命」。

「恋」の玉座《ぎよくざ》は、さはいへど、そこにしも在《あら》じ、空遠く、
逢瀬《あふせ》、別《わかれ》の辻風《つじかぜ》のたち迷ふあたり、離《さか》りたる
夢も通はぬ遠《とほ》つぐに、無言《しじま》の局奥深《つぼねおくふか》く、
設けられたり。たとへそれ、「真《まこと》」は「恋」の真心《まごころ》を
夙《つと》に知る可く、「望《のぞみ》」こそそを預言《か
前へ 次へ
全82ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング