ねごと》し、「誉《ほまれ》」こそ
そがためによく、「若き世」めぐし、「命」惜《を》しとも。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

   春の貢     ダンテ・ゲブリエル・ロセッティ

[#ここから1字下げ]
草うるはしき岸の上《うへ》に、いと美《うる》はしき君が面《おも》、
われは横《よこた》へ、その髪を二つにわけてひろぐれば、
うら若草のはつ花も、はな白《じろ》みてや、黄金《こがね》なす
みぐしの間《ひま》のこゝかしこ、面映《おもはゆ》げにも覗《のぞ》くらむ。
去年《こぞ》とやいはむ今年とや年の境《さかひ》もみえわかぬ
けふのこの日や「春」の足、半《なかば》たゆたひ、小李《こすもも》の
葉もなき花の白妙《しろたへ》は雪間がくれに迷《まど》はしく、
「春」住む庭の四阿屋《あづまや》に風の通路《かよひぢ》ひらけたり。

されど卯月《うづき》の日の光、けふぞ谷間に照りわたる。
仰ぎて眼《まなこ》閉ぢ給へ、いざくちづけむ君が面、
水枝《みづえ》小枝《こえだ》にみちわたる「春」をまなびて、わが恋よ、
温かき喉《のど》、熱き口、ふれさせたまへ、けふこそは、
契《ちぎり》もかたきみやづかへ
前へ 次へ
全82ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング