に輝き、
唖然《あぜん》としてすくみしわれらのうつけ姿。
げにや当年の己は
空恐ろしくも信心無く、
或日|精舎《しようじや》の奪掠《だつりやく》に
負けじ心の意気張づよく
神壇近き御燈《みあかし》に
煙草つけたる乱行者《らんぎようもの》、
上反鬚《うはぞりひげ》に気負《きおひ》みせ、
一歩も譲らぬ気象のわれも、
たゞ此僧の髪白く白く
神寂《かみさ》びたるに畏《かしこ》みぬ。
「打て」と士官は号令す。
誰|有《あつ》て動く者無し。
僧は確に聞きたらむも、
さあらぬ素振神々《そぶりかうがう》しく、
聖水|大盤《たいばん》を捧げてふりむく。
ミサ礼拝半《らいはいなかば》に達し、
司僧《しそう》むき直る祝福の時、
腕《かひな》は伸べて鶴翼《かくよく》のやう、
衆皆《しゆうみな》一歩たじろきぬ。
僧はすこしもふるへずに
信徒の前に立てるやう、
妙音|澱《よどみ》なく、和讃《わさん》を咏じて、
「帰命頂礼《きみようちようらい》」の歌、常に異らず、
声もほがらに、
「全能の神、爾等《なんぢら》を憐み給ふ。」
またもや、一声あらゝかに
「うて」と士官の号令に
進みいでたる一卒は
隊中
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