に、くひとめらる。
真白の十字胸につけ、
靴無き足の凜々《りり》しさよ、
血染の腕《かひな》巻きあげて、
大十字架にて、うちかゝる。
惨絶、壮絶。それと一斉射撃にて、
やがては掃蕩《そうとう》したりしが、
冷然として、残忍に、軍は倦《う》みたり。
皆心中に疾《やま》しくて、
とかくに殺戮《さつりく》したれども、
醜行|已《すで》に為し了《を》はり、
密雲漸く散ずれば、
積みかさなれる屍《かばね》より
階《きざはし》かけて、紅《べに》流れ、
そのうしろ楼門|聳《そび》ゆ、巍然《ぎぜん》として鬱たり。
燈明《とうみよう》くらがりに金色《こんじき》の星ときらめき、
香炉かぐはしく、静寂《せいじやく》の香《か》を放ちぬ。
殿上、奥深く、神壇に対《むか》ひ、
歌楼《かろう》のうち、やさけびの音《おと》しらぬ顔、
蕭《しめ》やかに勤行《ごんぎよう》営む白髪長身の僧。
噫《ああ》けふもなほ俤《おもかげ》にして浮びこそすれ。
モオル廻廊の古院、
黒衣僧兵のかばね、
天日、石だたみを照らして、
紅流に烟《けぶり》たち、
朧々《ろうろう》たる低き戸の框《かまち》に、
立つや老僧。
神壇|龕《づし》のやう
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