「よし」といひて、
たゞひとり闇穴道《あんけつどう》におりたちて、
物陰の座にうちかくる、ひたおもて、
地下《ちげ》の戸を、はたと閉づれば、こはいかに、
天眼《てんがん》なほも奥津城《おくつき》にカインを眺む。
[#ここで字下げ終わり]
ユウゴオの趣味は典雅ならず、性情奔放にして狂※[#「風にょう+炎」、第4水準2−92−35]《きようひよう》激浪の如くなれど、温藉静冽《おんしやせいれつ》の気|自《おのづ》からその詩を貫きたり。対聯《たいれん》比照に富み、光彩陸離たる形容の文辞を畳用して、燦爛《さんらん》たる一家の詩風を作りぬ。[#地から1字上げ]訳者
[#改ページ]
礼拝 フランソア・コペエ
[#ここから1字下げ]
さても千八百九年、サラゴサの戦、
われ時に軍曹なりき。此日|惨憺《さんたん》を極む。
街既に落ちて、家を囲むに、
閉ぢたる戸毎に不順の色見え、
鉄火、窓より降りしきれば、
「憎《に》つくき僧徒の振舞」と
かたみに低く罵《ののし》りつ。
明方《あけがた》よりの合戦に
眼は硝煙に血走りて、
舌には苦《に》がき紙筒《はやごう》を
噛み切る口の黒くとも、
奮
前へ
次へ
全82ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング