あ》、彼女《かのひと》にのみ内証《ないしよう》の秘めたる事ぞなかりける。
蒼ざめ顔のわが額《ひたひ》、しとゞの汗を拭ひ去り、
涼しくなさむ術《すべ》あるは、玉の涙のかのひとよ。

栗色髪のひとなるか、赤髪《あかげ》のひとか、金髪か、
名をだに知らね、唯思ふ朗ら細音《ほそね》のうまし名は、
うつせみの世を疾《と》く去りし昔の人の呼名《よびな》かと。

つくづく見入る眼差《まなざし》は、匠《たくみ》が彫《ゑ》りし像の眼か、
澄みて、離れて、落居《おちゐ》たる其|音声《おんじよう》の清《すず》しさに、
無言《むごん》の声の懐かしき恋しき節の鳴り響く。
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   落葉      ポオル・ヴェルレエヌ

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秋の日の
ヴィオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
こゝかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。
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仏蘭西《フランス》の詩はユウゴオに絵画の色を帯び、ルコント・ドゥ・リイルに彫塑の形を具《そな
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