》へ、ヴェルレエヌに至りて音楽の声を伝へ、而して又更に陰影の匂なつかしきを捉《とら》へむとす。[#地から1字上げ]訳者
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   良心      ヴィクトル・ユウゴオ

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革衣纏《かはごろもまと》へる児等《こら》を引具《ひきぐ》して
髪おどろ色蒼ざめて、降る雨を、
エホバよりカインは離《さか》り迷ひいで、
夕闇の落つるがまゝに愁然《しゆうねん》と、
大原《おほはら》の山の麓《ふもと》にたどりつきぬ。
妻は倦《う》み児等も疲れて諸声《もろごゑ》に、
「地《つち》に伏していざ、いのねむ」と語りけり。
山陰《やまかげ》にカインはいねず、夢おぼろ、
烏羽玉《うばたま》の暗夜《やみよ》の空を仰ぎみれば、
広大の天眼《てんがん》くわつと、かしこくも、
物陰の奥より、ひしと、みいりたるに、
わなゝきて「未だ近し」と叫びつつ、
倦《う》みし妻、眠れる児等を促して、
もくねんと、ゆくへも知らに逃《のが》れゆく。
かゝなべて、日には三十日《みそか》、夜《よ》は、三十夜《みそよ》、
色変へて、風の音《おと》にもをのゝきぬ。
やらはれの、伏眼《ふしめ》の旅は果もなし、
眠な
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