甚《はなはだ》しきは、いづれの先人をも凌《しの》ぎ、常に悲哀の詩趣を讃して、彼は自ら「悲哀の煉金道士」と号せり。
      *
先人の多くは、悩心地定かならぬままに、自然に対する心中の愁訴を、自然その物に捧げて、尋常の失意に泣けども、ボドレエルは然らず。彼は都府の子なり。乃《すなは》ち巴里《パリ》叫喊《きようかん》地獄の詩人として胸奥の悲を述べ、人に叛《そむ》き世に抗する数奇の放浪児が為に、大声を仮したり。その心、夜に似て暗憺《あんたん》、いひしらず汚れにたれど、また一種の美、たとへば、濁江の底なる眼、哀憐《あいりん》悔恨の凄光《せいこう》を放つが如きもの無きにしもあらず。
[#地から1字上げ]エミイル・ヴェルハアレン

ボドレエル氏よ、君は芸術の天にたぐひなき凄惨の光を与へぬ。即ち未だ曾《かつ》てなき一の戦慄《せんりつ》を創成したり。
[#地から1字上げ]ヴィクトル・ユウゴオ
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   譬喩《ひゆ》      ポオル・ヴェルレエヌ

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主は讃《ほ》むべき哉《かな》、無明《むみよう》の闇や、憎《にくみ》多き
今の世にありて、われを信徒となし給ひぬ。
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