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黒葉《くろば》水松《いちゐ》の木下闇《このしたやみ》に
並んでとまる梟は
昔の神をいきうつし、
赤眼《あかめ》むきだし思案顔。

体《たい》も崩さず、ぢつとして、
なにを思ひに暮がたの
傾く日脚《ひあし》推しこかす
大凶時《おほまがとき》となりにけり。

鳥のふりみて達人は
道の悟《さとり》や開くらむ、
世に忌々《ゆゆ》しきは煩悩と。

色相界《しきそうかい》の妄執《もうしゆう》に
諸人《しよにん》のつねのくるしみは
居《きよ》に安《やすん》ぜぬあだ心。
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現代の悲哀はボドレエルの詩に異常の発展を遂げたり。人或は一見して云はむ、これ僅に悲哀の名を変じて鬱悶《うつもん》と改めしのみと、しかも再考して終《つひ》にその全く変質したるを暁《さと》らむ。ボドレエルは悲哀に誇れり。即ちこれを詩章の竜葢帳《りようがいちよう》中に据ゑて、黒衣聖母の観あらしめ、絢爛《けんらん》なること絵画の如《ごと》き幻想と、整美なること彫塑《ちようそ》に似たる夢思とを恣《ほしいまま》にしてこれに生動の気を与ふ。ここに於てか、宛《あたか》もこれ絶美なる獅身女頭獣なり。悲哀を愛するの
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