れ、真白き双翼《そうよく》は、たゞ徒《いたづ》らに広ごりて、
今は身の仇《あだ》、益《よう》も無き二つの櫂《かい》と曳きぬらむ。

天《あま》飛ぶ鳥も、降《くだ》りては、やつれ醜き瘠姿《やせすがた》、
昨日《きのふ》の羽根のたかぶりも、今はた鈍《おぞ》に痛はしく、
煙管《きせる》に嘴《はし》をつゝかれて、心無《こころなし》には嘲けられ、
しどろの足を摸《ま》ねされて、飛行《ひぎよう》の空に憧《あこ》がるゝ。

雲居の君のこのさまよ、世の歌人《うたびと》に似たらずや、
暴風雨《あらし》を笑ひ、風|凌《しの》ぎ猟男《さつを》の弓をあざみしも、
地《つち》の下界《げかい》にやらはれて、勢子《せこ》の叫に煩へば、
太しき双《そう》の羽根さへも起居妨《たちゐさまた》ぐ足まとひ。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

   薄暮《くれがた》の曲《きよく》    シャルル・ボドレエル

[#ここから1字下げ]
時こそ今は水枝《みづえ》さす、こぬれに花の顫《ふる》ふころ。
花は薫じて追風に、不断の香の炉に似たり。
匂も音も夕空に、とうとうたらり、とうたらり、
ワルツの舞の哀れさよ、疲れ倦《う》み
前へ 次へ
全82ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上田 敏 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング