たる眩暈《くるめき》よ。

花は薫じて追風に、不断の香の炉に似たり。
痍《きず》に悩める胸もどき、ヴィオロン楽《がく》の清掻《すががき》や、
ワルツの舞の哀れさよ、疲れ倦みたる眩暈《くるめき》よ、
神輿《みこし》の台をさながらの雲悲みて艶《えん》だちぬ。

痍《きず》に悩める胸もどき、ヴィオロン楽《がく》の清掻《すががき》や、
闇の涅槃《ねはん》に、痛ましく悩まされたる優心《やさごころ》。
神輿《みこし》の台をさながらの雲悲みて艶《えん》だちぬ、
日や落入りて溺《おぼ》るゝは、凝《こご》るゆふべの血潮雲《ちしほぐも》。

闇の涅槃《ねはん》に、痛ましく悩まされたる優心《やさごころ》、
光の過去のあとかたを尋《と》めて集むる憐れさよ。
日や落入りて溺るゝは、凝《こご》るゆふべの血潮雲、
君が名残《なごり》のたゞ在るは、ひかり輝く聖体盒《せいたいごう》。
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   破鐘《やれがね》      シャルル・ボドレエル

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悲しくもまたあはれなり、冬の夜の地炉《ゐろり》の下《もと》に、
燃えあがり、燃え尽きにたる柴の火に耳傾けて、

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