し》わりにけりな、時津風《ときつかぜ》、
西の世界の不思議なる遠荒磯《とほつありそ》に。

ゆふべゆふべは壮大の旦《あした》を夢み、
しらぬ火や、熱帯海《ねつたいかい》のかぢまくら、
こがね幻《まぼろし》通ふらむ。またある時は

白妙の帆船の舳《へ》さき、たゝずみて、
振放《ふりさけ》みれば、雲の果、見知らぬ空や、
蒼海《わだつみ》の底よりのぼる、けふも新星《にひぼし》。
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   夢       シュリ・プリュドン

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夢のうちに、農人曰《のうにんいは》く、なが糧《かて》をみづから作れ、
けふよりは、なを養はじ、土を墾《ほ》り種を蒔《ま》けよと。
機織《はたおり》はわれに語りぬ、なが衣《きぬ》をみづから織れと。
石造《いしつくり》われに語りぬ、いざ鏝《こて》をみづから執《と》れと。

かくて孤《ひと》り人間の群やらはれて解くに由なき
この咒詛《のろひ》、身にひき纏《まと》ふ苦しさに、みそら仰ぎて、
いと深き憐愍《あはれみ》垂れさせ給へよと、祷《いの》りをろがむ
眼前《まのあたり》、ゆくての途のたゞなかを獅子はふたぎぬ。


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