理を開陳したるは、この詩人の特色ならむ。儕輩《さいはい》の詩人皆多少憂愁の思想を具《そな》へたれど、厭世観の理義彼に於ける如く整然たるは罕《まれ》なり。衆人|徒《いたづ》らに虚無を讃す。彼は明かにその事実なるを示せり。その詩は智の詩なり。然も詩趣|饒《ゆた》かにして、坐《そぞ》ろにペラスゴイ、キュクロプスの城址《じようし》を忍ばしむる堅牢《けんろう》の石壁は、かの繊弱の律に歌はれ、往々俗謡に傾ける当代伝奇の宮殿を摧《くだ》かむとすなり。
[#地から1字上げ]エミイル・ヴェルハアレン
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   珊瑚礁《さんごしよう》    ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ

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波の底にも照る日影、神寂《かみさ》びにたる曙《あけぼの》の
照しの光、亜比西尼亜《アビシニア》、珊瑚の森にほの紅く、
ぬれにぞぬれし深海《ふかうみ》の谷隈《たにくま》の奥に透入《すきい》れば、
輝きにほふ虫のから、命にみつる珠《たま》の華。

沃度《ヨウド》に、塩にさ丹《に》づらふ海の宝のもろもろは
濡髪《ぬれがみ》長き海藻《かいそう》や、珊瑚、海胆《うに》、苔《こけ》までも、
臙脂《えんじ》紫《む
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