たり、荊棘《けいきよく》路を塞《ふさ》ぎたる原野に対《むかひ》て、これが開拓を勤むる勇猛の徒を貶《けな》す者は怯《きよう》に非《あ》らずむば惰なり。
訳者|嘗《かつ》て十年の昔、白耳義《ベルギー》文学を紹介し、稍《やや》後れて、仏蘭西詩壇の新声、特にヴェルレエヌ、ヴェルハアレン、ロオデンバッハ、マラルメの事を説きし時、如上《うへのごとき》文人の作なほ未《いま》だ西欧の評壇に於ても今日の声誉《せいよ》を博する事|能《あた》はざりしが、爾来《じらい》世運の転移と共に清新の詩文を解する者、漸《やうや》く数を増し勢を加へ、マアテルリンクの如きは、全欧思想界の一方に覇《は》を称するに至れり。人心観想の黙移実に驚くべきかな。近体新声の耳目に嫺《なら》はざるを以て、倉皇視聴を掩《おほ》はむとする人々よ、詩天の星の宿は徙《のぼ》りぬ、心せよ。
日本詩壇に於ける象徴詩の伝来、日なほ浅く、作未だ多からざるに当て、既《すで》に早く評壇の一隅に囁々《しようしよう》の語を為《な》す者ありと聞く。象徴派の詩人を目して徒らに神経の鋭きに傲《おご》る者なりと非議する評家よ、卿等《けいら》の神経こそ寧ろ過敏の徴候を
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