る悲愁、神秘なる歓楽を覚ゆるものから、当代の愚かしき歌物語が、野卑陳套《やひちんとう》の曲を反復して、譬《たと》へば情痴の涙に重き百葉の軽舟、今、芸苑の河流を閉塞《へいそく》するを敬せざるのみ。尋常世態の瑣事《さじ》、奚《いづくん》ぞよく高踏派の詩人を動さむ。されどこれを倫理の方面より観むか、人生に対するこの派の態度、これより学ばむとする教訓はこの一言に現はる。曰く哀楽は感ず可く、歌ふ可し、然も人は斯多阿《ストア》学徒の心を以て忍ばざる可からずと。かの額付《ひたひつき》、物思はしげに、長髪わざとらしき詩人等もこの語には辟易《へきえき》せしも多かり。さればこの人は芸文に劃然《かくぜん》たる一新機軸を出しし者にして同代の何人よりも、その詩、哲理に富み、譬喩《ひゆ》の趣を加ふ。「カイン」「サタン」の詩二つながら人界の災殃《さいおう》を賦《ふ》し、「イパティイ」は古代衰亡の頽唐美《たいとうび》、「シリル」は新しき信仰を歌へり。ユウゴオが壮大なる史景を咏《えい》じて、台閣の風ある雄健の筆を振ひ、史乗逸話の上に叙情詩めいたる豊麗を与へたると並びて、ルコント・ドゥ・リイルは、伝説に、史蹟に、内部の精
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