の光まばゆきを。

一天霽《いつてんは》れて、そが下に、かゝる炎の野はあれど、
物鬱《ものうつ》として、寂寥《せきりよう》のきはみを尽すをりしもあれ、
皺《しわ》だむ象の一群よ、太しき脚の練歩《ねりあし》に、
うまれの里の野を捨てゝ、大沙原《おほすなばら》を横に行く。

地平のあたり、一団の褐色《くりいろ》なして、列《つら》なめて、
みれば砂塵を蹴立てつゝ、路無き原を直道《ひたみち》に、
ゆくてのさきの障碍《さまたげ》を、もどかしとてや、力足《ちからあし》、
蹈鞴《たたら》しこふむ勢《いきほひ》に、遠《をち》の砂山崩れたり。

導《しるべ》にたてる年嵩《としかさ》のてだれの象の全身は
「時」が噛みてし、刻みてし老樹の幹のごと、ひわれ
巨巌の如き大頭《おほがしら》、脊骨《せぼね》の弓の太しきも、
何の苦も無く自《おの》づから、滑《なめ》らかにこそ動くなれ。

歩遅《あゆみおそ》むることもなく、急ぎもせずに、悠然と、
塵にまみれし群象をめあての国に導けば、
沙《すな》の畦《あぜ》くろ、穴に穿《うが》ち、続いて歩むともがらは、
雲突く修験山伏《すげんやまぶし》か、先達《せんだつ》の蹤蹈《あと
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