なし。
それ人間も、鱶鮫《ふかざめ》も、残害《ざんがい》の徒も、餌食《ゑじき》等も、
見よ、死の神の前にして、二つながらに罪ぞ無き。
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象 ルコント・ドゥ・リイル
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沙漠は丹《たん》の色にして、波|漫々《まんまん》たるわだつみの
音しづまりて、日に燬《や》けて、熟睡《うまい》の床に伏す如く、
不動のうねり、大《おほ》らかに、ゆくらゆくらに伝《つたは》らむ、
人住むあたり銅《あかがね》の雲、たち籠むる眼路《めぢ》のすゑ。
命も音も絶えて無し。餌《ゑば》に飽きたる唐獅子《からじし》も、
百里の遠き洞窟《ほらあな》の奥にや今は眠るらむ。
また岩清水|迸《ほとばし》る長沙《ちようさ》の央《なかば》、青葉かげ、
豹《ひよう》も来て飲む椰子森《やしりん》は、麒麟《きりん》が常の水かひ場。
大日輪の走《は》せ廻《めぐ》る気重き虚空鞭《こくうむち》うつて、
羽掻《はがき》の音の声高き一鳥《いつちよう》遂に飛びも来ず、
たまたま見たり、蟒蛇《うはばみ》の夢も熱きか円寝《まろね》して、
とぐろの綱を動せば、鱗《うろこ》
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