》の営《いとなみ》に、
夕暮がたの悲を心に痛み歩むごと、
また古《いにしへ》の六部等《ろくぶら》が後世《ごせ》安楽の願かけて、
霊場詣《りようじようまうで》、杖重く、番《ばん》の御寺《みてら》を訪ひしごと。

赤々として暮れかゝる入日の影は牡丹花《ぼたんか》の
眠れる如くうつろひて、河添馬道《かはぞひめどう》開けたり。
噫《ああ》、冬枯や、法師めくかの行列を見てあれば、
たとしへもなく静かなる夕《ゆふべ》の空に二列《ふたならび》、

瑠璃《るり》の御空《みそら》の金砂子《きんすなご》、星輝ける神前に
進み近づく夕づとめ、ゆくてを照らす星辰は
壇に捧ぐる御明《みあかし》の大燭台《だいそくだい》の心《しん》にして、
火こそみえけれ、其|棹《さを》の閻浮提金《えんぶだごん》ぞ隠れたる。
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   水かひば    エミイル・ヴェルハアレン

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ほらあなめきし落窪《おちくぼ》の、
夢も曇るか、こもり沼《ぬ》は、
腹しめすまで浸りたる
まだら牡牛の水かひ場《ば》。

坂くだりゆく牧《まき》がむれ、
牛は練《ね》りあし、馬は※[#「足へん+鉋のつくり」、第3水準1−92−34]《だく》、
時しもあれや、落日に
嘯《うそぶ》き吼《ほ》ゆる黄牛《あめうし》よ。

日のかぐろひの寂寞《じやくまく》や、
色も、にほひも、日のかげも、
梢《こずゑ》のしづく、夕栄《ゆふばえ》も。

靄《もや》は刈穂《かりほ》のはふり衣《ぎぬ》、
夕闇とざす路《みち》遠み、
牛のうめきや、断末魔。
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   畏怖《おそれ》      エミイル・ヴェルハアレン

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北に面《むか》へるわが畏怖《おそれ》の原の上に、
牧羊の翁《おきな》、神楽月《かぐらづき》、角《かく》を吹く。
物憂き羊小舎《ひつじごや》のかどに、すぐだちて、
災殃《まがつび》のごと、死の羊群を誘ふ。

きし方《かた》の悔《くい》をもて築きたる此|小舎《こや》は
かぎりもなき、わが憂愁の邦《くに》に在りて、
ゆく水のながれ薄荷莢※[#「くさかんむり/二点しんにょうの迷」、第4水準2−86−56]《めぐさがまずみ》におほはれ、
いざよひの波も重きか、蜘手《くもで》に澱《よど》む。

肩に赤十字ある墨染《すみぞめ》の小羊よ、
色も
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