君がおも。
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   岩陰に     ロバアト・ブラウニング

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    一

嗚呼《ああ》、物古《ものふ》りし鳶色《とびいろ》の「地《ち》」の微笑《ほほゑみ》の大《おほ》きやかに、
親しくもあるか、今朝《けさ》の秋、偃曝《ひなたぼこり》に其骨《そのほね》を
延《のば》し横《よこた》へ、膝節《ひざぶし》も、足も、つきいでて、漣《さざなみ》の
悦《よろこ》び勇み、小躍《こをどり》に越ゆるがまゝに浸《ひ》たりつゝ、
さて欹《そばた》つる耳もとの、さゞれの床《とこ》の海雲雀《うみひばり》、
和毛《にこげ》の胸の白妙《しろたへ》に囀《てん》ずる声のあはれなる。

    二

この教こそ神《かん》ながら旧《ふ》るき真《まこと》の道と知れ。
翁《おきな》びし「地《ち》」の知りて笑《ゑ》む世の試《こころみ》ぞかやうなる。
愛を捧げて価値《ねうち》あるものゝみをこそ愛しなば、
愛は完《まつ》たき益にして、必らずや、身の利とならむ。
思《おもひ》の痛み、苦みに卑《いや》しきこゝろ清めたる
なれ自らを地に捧げ、酬《むくひ》は高き天《そら》に求めよ。
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   春の朝     ロバアト・ブラウニング

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時は春、
日は朝《あした》、
朝《あした》は七時、
片岡《かたをか》に露みちて、
揚雲雀《あげひばり》なのりいで、
蝸牛枝《かたつむりえだ》に這《は》ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
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   至上善     ロバアト・ブラウニング

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蜜蜂の嚢《ふくろ》にみてる一歳《ひととせ》の香《にほひ》も、花も、
宝玉の底に光れる鉱山《かなやま》の富も、不思議も、
阿古屋貝《あこやがひ》映《うつ》し蔵《かく》せるわだつみの陰も、光も、
香《にほひ》、花、陰、光、富、不思議及ぶべしやは、
   玉《ぎよく》よりも輝く真《まこと》、
   珠《たま》よりも澄みたる信義、
天地《あめつち》にこよなき真《まこと》、澄みわたる一《いち》の信義は
   をとめごの清きくちづけ。
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ブラウニングの楽天説は、既に二十歳の作「ポオリイン」に顕《あらは》れ、「ピパ」の歌、「神、そらにし
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