し》わりにけりな、時津風《ときつかぜ》、
西の世界の不思議なる遠荒磯《とほつありそ》に。

ゆふべゆふべは壮大の旦《あした》を夢み、
しらぬ火や、熱帯海《ねつたいかい》のかぢまくら、
こがね幻《まぼろし》通ふらむ。またある時は

白妙の帆船の舳《へ》さき、たゝずみて、
振放《ふりさけ》みれば、雲の果、見知らぬ空や、
蒼海《わだつみ》の底よりのぼる、けふも新星《にひぼし》。
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   夢       シュリ・プリュドン

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夢のうちに、農人曰《のうにんいは》く、なが糧《かて》をみづから作れ、
けふよりは、なを養はじ、土を墾《ほ》り種を蒔《ま》けよと。
機織《はたおり》はわれに語りぬ、なが衣《きぬ》をみづから織れと。
石造《いしつくり》われに語りぬ、いざ鏝《こて》をみづから執《と》れと。

かくて孤《ひと》り人間の群やらはれて解くに由なき
この咒詛《のろひ》、身にひき纏《まと》ふ苦しさに、みそら仰ぎて、
いと深き憐愍《あはれみ》垂れさせ給へよと、祷《いの》りをろがむ
眼前《まのあたり》、ゆくての途のたゞなかを獅子はふたぎぬ。

ほのぼのとあけゆく光、疑ひて眼《まなこ》ひらけば、
雄々しかる田つくり男、梯立《はしだて》に口笛鳴らし、
※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]具《はたもの》の※[#「足へん+搨のつくり」、第4水準2−89−44]木《ふみき》もとゞろ、小山田に種《たね》ぞ蒔きたる。

世の幸《さち》を今はた識《し》りぬ、人の住むこの現世《うつしよ》に、
誰かまた思ひあがりて、同胞《はらから》を凌《しの》ぎえせむや。
其日より吾はなべての世の人を愛しそめけり。
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   信天翁《おきのたゆう》     シャルル・ボドレエル

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波路遙けき徒然《つれづれ》の慰草《なぐさめぐさ》と船人《ふなびと》は、
八重の潮路の海鳥《うみどり》の沖の太夫《たゆう》を生檎《いけど》りぬ、
楫《かぢ》の枕のよき友よ心|閑《のど》けき飛鳥《ひちよう》かな、
奥津潮騒《おきつしほざゐ》すべりゆく舷《ふなばた》近くむれ集《つど》ふ。

たゞ甲板《こうはん》に据ゑぬればげにや笑止《しようし》の極《きはみ》なる。
この青雲の帝王も、足どりふらゝ、拙《つたな》くも、
あは
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