らさき》あかあかと、華奢《かしや》のきはみの絵模様に、
薄色ねびしみどり石、蝕《むしば》む底ぞ被《おほ》ひたる。

鱗《こけ》の光のきらめきに白琺瑯《はくほうろう》を曇らせて、
枝より枝を横ざまに、何を尋《たづ》ぬる一大魚《いちだいぎよ》、
光|透入《すきい》る水かげに慵《ものう》げなりや、もとほりぬ。

忽ち紅火飄《こうかひるが》へる思の色の鰭《ひれ》ふるひ、
藍《あゐ》を湛《たた》へし静寂のかげ、ほのぐらき清海波《せいがいは》、
水揺《みづゆ》りうごく揺曳《ようえい》は黄金《おうごん》、真珠、青玉《せいぎよく》の色。
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   床       ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ

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さゝらがた錦を張るも、荒妙《あらたへ》の白布《しらぬの》敷くも、
悲しさは墳塋《おくつき》のごと、楽しさは巣の如しとも、
人生れ、人いの眠り、つま恋ふる凡《す》べてこゝなり、
をさな児《ご》も、老《おい》も若《わかき》も、さをとめも、妻も、夫も。

葬事《はふりごと》、まぐはひほがひ、烏羽玉《うばたま》の黒十字架《くろじゆうじか》に
浄《きよ》き水はふり散らすも、祝福の枝をかざすも、
皆こゝに物は始まり、皆こゝに事は終らむ、
産屋《うぶや》洩る初日影より、臨終の燭《そく》の火までも、

天離《あまさか》る鄙《ひな》の伏屋《ふせや》も、百敷《ももしき》の大宮内《おほみやうち》も、
紫摩金《しまごん》の栄《はえ》を尽して、紅《あけ》に朱《しゆ》に矜《ほこ》り飾るも、
鈍色《にびいろ》の樫《かし》のつくりや、楓《かへで》の木、杉の床にも。

独《ひと》り、かの畏《おそれ》も悔も無く眠る人こそ善けれ、
みおやらの生れし床に、みおやらの失《うせ》にし床に、
物古りし親のゆづりの大床《おほどこ》に足を延ばして。
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   出征      ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ

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高山《たかやま》の鳥栖巣《とぐらす》だちし兄鷹《しよう》のごと、
身こそたゆまね、憂愁に思は倦《うん》じ、
モゲルがた、パロスの港、船出して、
雄誥《をたけ》ぶ夢ぞ逞《たく》ましき、あはれ、丈夫《ますらを》。

チパンゴに在りと伝ふる鉱山《かなやま》の
紫摩黄金《しまおうごん》やわが物と遠く、求むる
船の帆も撓《
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